「オーナー社長」が立て替えした経費を清算しないと、いずれどうなる?過大な「役員借入金」の落とし穴について解説します


 役員であれ、従業員であれ、「会社の経費を立て替える」ことはよくあることかと思います。
 従業員や株式を握っていない役員などが経費を立て替えると、
 (借方)適切な経費勘定 / (貸方)未払金勘定
 という仕訳をきりますよね。
 従業員の方が出張旅費などを立て替えた場合が良い例かと思います。月末までに、ホテル代や旅行代理店などの領収書を会社の経理課に提出して、翌月の給与支給あたりで清算されたり・還付されたりしますよね。このときは、以下のような仕訳を切って、未払金勘定の残高が理論上なくなりますよね。
 (借方)未払金勘定 / (貸方)現金預金
 このような場合には、2本の仕訳をドッキングするとわかるように、会社が直接外部に経費を支払ったのと同じ扱いになりますね。よって、会計上や税務上、特に落とし穴になるような留意点はないかと思います。

さて、
会長、社長などの会社の株式を所有するオーナーが「会社の経費を立て替えて」、清算・還付を行わず、そのまま放置したケースはどうでしょうか?
株式をもつオーナー社長が会社の経費を立て替えた場合、以下のような仕訳を切ります。
(借方)適切な経費勘定 / (貸方)役員借入金勘定
オーナー社長にとって、「自分の会社」「自分がいつでもコントロールできる」という意識が働くためか、長年に渡って清算せず、放置されるケースがあります。
 そうなると、この「役員借入金」勘定が、積もりに積もって、数十万円から数百万円、稀に数千万円になっていたというケースもあったりします。
 この場合、会計上、税務上、どんな落とし穴が待っているのでしょうか?
 また、その対策はないのでしょうか?


<オーナー社長が突然他界したらどうなる?>
 人間も生き物ですから、オーナー社長が、たとえ社内では偉かろうと、だれでもいつかは死んでしまいます。
 それが、この役員借入金を数百万円残した状態で、なにも手を打たずに突如他界したら、どうなるでしょうか?
<相続税の増大要因になってしまいます!>
 会社にとっての「役員借入金」勘定、数百万円は、この死亡したオーナー社長側からみると会社への「貸付金」となりますね。
 よって、「貸付金」はオーナー社長の相続税法上の「財産」となってしまいます。
 「財産」である以上、財産評価の対象となり、課税財産として、相続税の増大要因となってしまいますね。
 実際にどのくらいの相続税となってしますのか、試算してもらうには、税理士やファイナンシャルプランナーに個別に相談すると良いでしょう。
 このように、自分が株主を務める「会社のサイフ」と、自分自身の社長「個人のサイフ」を、文字通り、公私混同していると、配偶者様やお子様などの相続人が、寝耳に水というような思わぬ税金の出費という落とし穴となってしまうケースもあったりします。
 よって、役員借入金は、決算時などの際に、定期的に見直すべきかと思います。役員借入金の残高がどれくらい残っていて、今後どういうスケジューリングで清算していくか、意識していないとイザというときにびっくりするような課税をされたりしてしまいます。

<企業価値が下がります>
 例えば、M&Aなどしたい、オーナー会社を売りたいと考えた場合どうでしょうか?
 当然、一生懸命、自分が守ってきた会社です。どうせ売り放すのなら、1円でも高く売りたいのではないでしょうか?
 まず、あなたの意向とは別に、購入する側である相手先が、ある程度適正な購入価格を知るために、様々な資料を基に、売り手側であるあなたのオーナー会社の企業価値を算定することになります。これをデューデリジェンスなどと言います。現在価値を算定するDCF法など、色々な方法があり、複数の企業価値の数値を平均したりして、目安となる企業価値を算定するそうです。
 そのひとつに「非上場株式」の「株価算定」による方法もあります。
 非上場株式の株価の算定方法には、類似比準方式・純資産比準方式などがあります。このうち、純資産比準方式では、会社の「負債」は、株価の下落要素となることが算式からわかります。よって、「役員借入金」が過大にあると、その分、株価も下がり、結果的に会社の売値も下がる要因になりうるということが予想できます。よって、過大な「役員借入金」が企業価値の足を引っ張る恐れがあるということが言えるのではないかと思います。

<会社の借金を、銀行はどうみるのでしょうか?>
 会社が、銀行からお金を借りているとした場合、さらに追加融資を受けようとしたり、または、決算の際に、銀行から決算書のコピーを要求されることがあります。このとき、貸借対照表(B/s)の貸方には、「役員借入金」勘定に数百万円の残高が計上されているとしますよね。
 さて、銀行はこれをどうみるのでしょうか?
 「経理(清算)や、会計処理上、ちょっとルーズな会社」という見方もあるかと思います。オーナー企業ならではの代表的な特徴となります。証券取引所に「上場」したい場合などは、会社を私物かしていますと論外と扱われるかもしれませんね。
 一方で、「役員借入金は大きいが実質的に純資産と同質である」と見る場合もあるそうです。
 社長が会社に投資したようなものという見方もあるということかと思います。

 よって、上場はできないものの、銀行からの借入ならできるという発想になってしまいますよね。
 この甘さからオーナー社長はなおさら「役員借入金」の清算せず、放置してしまうのでしょうね。

<負債を資本金に?>
 役員借入金などの負債を清算以外でなくす方法はないのでしょうか?
 あります。DES(デス)という方法です。だじゃれみたいになりましたが、「負債」を「資本金」に組み入れるすごい方法です。
 (借方)役員借入金 / (貸方) 純資産
 このような仕訳のイメージになるかと思います。
 ただ、「法人住民税」の「法人均等割」という税金があり、資本金の額に応じて課税されることから、税金が増大してしまうことも意識しますと、ちゃんとわかっていて検討すべきかと思います。
 資本金の変更ですので、株主総会なども行うことになるかと思います。株主を招集したり、議事録を残したり、結構たいへんですよね。
<個人成りも手かも?>
 会社と個人という2者間があるため、公私混同すると、役員借入金の放置の問題が生じてしまいます。
 では、公私混同にまみれた会社の経営をやめ、もう一度、個人事業主から出直すことを考えた場合どうなるでしょう。
 この場合、オーナー社長は役員借入金を免除することを考えるかもしれませんね。これを債務免除と言いますが、法人側では、「債務免除益」という利益の勘定がたちます。損益計算書上、「特別利益」に計上するものが生じてきてしまいますね。
 (借方)役員借入金 / (貸方)債務免除益
 ただ、このような会社の場合、既に毎年赤字続きで、キャッシュがない中小企業であることが想像できます。ならば、もともと毎年生じていた「営業赤字」や「繰越欠損金」などに、債務免除益から生じる「特別利益」を充てて「減税」を図ることができると理論的には考えることができます。繰越欠損金がたくさん残っていれば、もしかしたら、債務免除益を出しても、税金ゼロとすることができるかもしれません。
 そして今後は、個人事業主として経営をすることになりますが、2者間ではなく、自分自身が経営の母体であるため、役員借入金のような概念がなくなります。経理面でルーズなひとは個人事業主で仕事した方がいい場合もあるかもしれませんよ。
<やはり、こまめに清算がいちばん!>
 役員借入金を増大させないように、「定期的に清算する」のがやっぱり一番ですね。
 そのためには、会社の預貯金などのキャッシュのコントロールも大切になってきます。
 役員に返済できるだけの会社の現金を定期的にとっておくことを意識して経営管理しましょう。
早い話、従業員の立替金と同じ気持ちで取り扱うのが一番です。


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2021年5月24日